2014年03月10日

美術室の思い出

美術室の思い出

七枝は、快く、その生地を手に入れた店を教えてくれて、店員に、七枝が買ったのと同じ生地といえばわかると言ってくれた。
「ななちゃんは、常連さんなんや」
穂摘は感心して言う。
「常連っていうか、仕入先のひとつかな。私が仕入できれば、穂摘ちゃんにも安く譲れるのに、ごめんな」
そんなお仕事ルートで入手しようとは思ってもみなかった穂摘は、七枝の口ききで専門業者に入れるだけでワクワクした。

そういう穂摘をみて、七枝は、くすっと笑う。
「なに?」
穂摘がたずねると、七枝は更に笑みを浮かべた。
「私たちが、なんで、この花柄に惹かれるのか、穂摘ちゃんは本当に気付いてないのかな、と思って」
穂摘は、首をかしげる。
「・・・なんかあったっけ?」
七枝は、楽しそうに言った。
「・・・高校の美術室」
そう言われて、穂摘は、ハッとした。
「朝田先輩!」
昔を思い出した穂摘は、思わず頬を赤らめた。

朝田先輩は、穂摘たちの高校の女子のあこがれの人で、サッカー部のエースだった。そして、サッカー部が練習する校庭の端が、ちょうど、美術室からよく見えたのだ。だから、放課後、何人もの女の子が、美術室のカーテン越しに、彼を見つめていた。そのカーテンが、この花柄のレース・カーテンと、紺の暗幕だった。昼間、紺の暗幕を引くと、外の太陽の明るさで、机や床に、紺色の小さな花柄が浮いて見えていたものだ。

「穂摘ちゃんも、よくあそこにいたよね?」
そう言われ、照れながらも、穂摘は驚く。
「ななちゃんも、いたん?」
「いた、いた。っていうか、私は美術部やったし、堂々としてればよかったんやけど。恥ずかしくて、暗幕越しにしか先輩を見れなかった。」
「ななちゃんも、ファンやったんや!」

意外な七枝の過去を知り、穂摘はうれしくなった。


タグ :カーテン

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Posted by 弘せりえ at 11:04│Comments(0)カーテン
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